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「気分は?」
「最悪よ。さっさと出してくれると嬉しいんだけど」
問い掛けに皮肉で返すと、さぞや面白そうに信楽は笑う。
「お前が負けを認めるのであればすぐにでも放すつもりではあるんだがな」
目を覚ました葵の身体は、気を失った時と変わらず触手に拘束されていた。異法域によって術式を使えない現状、ここから脱するのは不可能に近い。そもそも、術式が使えたところで状況を打開できるとも思えないが。
「冗談。私は負けるつもりはないわよ」
「に、しては随分と乱れていたがな。幸いなことに映像記録も残っているが、確認してみるか?」
「ッ! 随分と悪趣味ね」
「以前、羅刹にも同じことを言われたよ」
吐き捨てるように返すと、懐古するように遠くを見つめる信楽。
「一つ、聞かせて」
「……そういう場合、往々にして問いが一つではないことが多いが、まぁいい。私が答えられる範囲のことであれば答えよう」
「お前は何故、人を襲ったの? 若い女性ばかり消えるというならわかる。でも、今回の失踪事件は老若男女問わずに発生した。それは何故?」
葵の問いに、信楽は「ほぅ」と、微かに驚きを表した。
「この状況下においてそのような些事を気にかけるとは、想像以上の大物だな」
「お前なんかに褒められてもちっとも嬉しくないわね」
信楽の称賛にも、葵の心は晴れはしない。
「別に隠すようなことではない。私はつい先日目覚めたばかりでな。現在の様々な情報を取り入れるために様々な人々を吸収していたに過ぎない。情報源を選り好みする必要もない。それ故にそのような結果になったというわけだ。情報だけを引き出しても構わないのだが、加えて人外を放つことでお前たちのような術士が興味を持つとも思った。女は活きが良いに越したことはないからな」
つまりは葵は見事に術中に嵌っていたということになる。
先日の、突然現れた触手塊にしても、信楽が転移術式を使ったというのであれば頷ける。とはいえ、何の情報も無く欠片が関わっているなどという答えを導き出すことなどできるわけもなかったのだが。
「疑問は解決したか?」
「えぇ、おかげさまで私がお前に踊らされた道化だって自覚したわよ」
「自覚は大切だ。次は奴隷としての自覚でも持ってもらえると嬉しい……では始めよう」
信楽の言葉に従い、肉壁から更に多くの触手が生え出す。
粘液を纏ったもの、キチン質で覆われているようなもの、ヒトのイチモツとそっくりなもの、先端が針のように尖ったもの、透明な管のような形をしたものなど、多種多様な触手が葵の周囲を覆いつくす。
「それでは後は若い者たちに任せて……」
告げて、信楽の姿が見えなくなる。自分が置かれた状況に葵は改めて恐怖を感じた。
「ひっ……」
信楽は、恐ろしい相手ではあるが理性もあり、会話自体は可能な存在だ。解放を望んだところで聞き入れられるというものではないものの、それでも意思疎通が出来る存在であることは葵の恐怖を、当人も理解しないままに和らげていた。
だが、今目の前にあるのは無数の触手のみ。そして、それらが何のために存在するのかということを、葵は肌で感じ取っている。
「ぃゃ……嫌、イヤよ!」
葵の叫びが聞き届けられることはなく、触手はあえて恐怖心を煽るかのようにゆらりゆらりと葵へと迫ってくる。
四肢を拘束している触手が蠢き、葵を肉床へと下ろす。湿った床の感触にも、嫌悪感を覚える余裕すらない。
両足に絡みついた触手が、葵の股を本人の意思とは裏腹に開かせていく。
「やめて、ねぇ、やめてよ! ねぇ!」
無数の触手の中から、一際太い一本の触手が姿を見せる。三十センチほどもあるソレの先端は平坦になっており、四本の細い触手が更に生えていた。
その触手が隠すもののない葵の淫裂に押し当てられると、四本の細い触手が葵の足の付け根に固定するように絡みつく。
「嫌っ! そんなの入るわけなッ……」
五月蝿い、とでも言うかのように、触手の群れの中から透明な管状の触手が飛び出し、葵の口を塞いだ。管状触手もまた、先端から細い触手を伸ばし、自らを葵の口に固定する。
葵が喋れなくなったのを確認するように一拍の呼吸を置いて、極太の触手の先端が開いた。
中から出てくるのはそれこそ人間のペニスのような――それにしてはやや大きすぎるが――触手だった。その周りを一ミリ程度の、微細触手が囲んでいる。その触手の外皮ともいうべき部分が、葵の腰を覆う。
これから何が起こるのかを理解した葵は全身でそれを拒絶しようとするが、術式による強化もない状態では拘束を解くどころか、身動き一つとれはしない。
「!」
肉棒触手が葵の膣口を開き、挿入する。その感覚に葵は嫌悪感を抱くが、それは触手が入ってきたからではない。その感触を快感と感じてしまった自分に対する嫌悪感である。
微細触手は淫核や菊門を巧みに刺激する。口を触手に塞がれていなければ、葵は甘い声を漏らしていたことだろう。
膣内の肉棒触手が、突然振動を始める。それまでになかった感覚に、葵は今回最初の絶頂を味わう。しかし、葵が絶頂を迎えても触手の振動は止まらない。
連続する振動と微細触手の愛撫によって、葵は幾度もの連続絶頂を受けていた。
しばらく経って、触手の振動が止まる。
(もう終わり、なの?)
心の中での呟きが、安堵の意味だったのか、それとも残念に思ってのものなのかは葵自身にも判断はつかなかった。
しかし、葵の疑問に対する回答は否だった。
それまで一切動かなかった管状触手が蠕動する。危機感を感じた葵は舌を使ってどうにか触手を引き剥がそうとするものの、意味はない。
透明な管の中を青色の液体が流れてくるのを理解した瞬間、葵の口の中をその液体が満たした。
味はないが、だからこそ逆に嫌悪感もなかった。無理矢理に流し込まれる液体を、葵は生存本能に従って嚥下していく。
十秒ほど、それが続いたかと思うと液体の流出が止まる。
(今のは、何?)
その疑問はすぐに氷解した。腰を覆っていた肉棒触手が動きを再開する。今度は振動ではなく、前後の動きで。
触手のストロークは決して弱いものではない。むしろ、振動していたときよりも強い快楽を葵に与えてくる。にもかかわらず、葵は絶頂を迎えることが出来ない。その理由としては、先程の液体以外に考えられない。
(まさか、イけないっていうの?)
恐怖。
最早、触手に対する嫌悪感すらも忘れ去り、ただ絶頂を迎えられないという事実に対する恐怖を葵は感じていた。
そう考える間も、肉棒触手は葵の子宮口を叩き、微細触手は淫核の愛撫を続ける。圧倒的な快感を与えられつつも、しかし葵は絶頂を得られない。
十秒、五分、十分、そして一時間と、絶頂を迎えられないままに快楽を与えられ続ける。
(イキたい……)
次第に、葵はそう思うようになっていった。
葵は正義感が強く、術士としても優秀な少女である。だが、術士として有名だからといって、その精神が堅固なものであることには直結しない。精神の強さ自体は、普通の少女と変わらないのだ。
更に二時間、五時間、十時間と、眠ることも気を失うことも出来ず延々と与えられる快感の暴力に、葵は今にも狂ってしまいそうになる。しかし、葵には発狂という逃げ道すら残されてはいない。
(イキたい! イキたいイキたいイキたいイキたい!)
既に葵の思考を埋め尽くしているのは絶頂への渇望ただ一つ。それ以外のあらゆる思考は存在しない。
そうしていると、再び管状触手が蠕動する。
流れてきたのは赤い液体。
葵が何を考えたのかはわからない。ただ、本能的に従って、しかし先程とは違い、己の欲求を叶えるために葵はその液体を全霊をもって飲み尽くした。
瞬間。
堰を切ったかのような途轍もない絶頂が、葵の身を襲った。
あまりの快感に全てが塗りつぶされ、思考がスパークする。許容量を遥かに超える快感に、葵はこの上ない満足感と幸福感を感じながら、その意識を失った。
その淫裂からは、愛液が止め処なく、歓喜の涙のように流れ続けていた。