File No.001 : 櫛本真白


 櫛本くしもと真白ましろは孤独だった。
 今まではそうだったし、これからも変わらないと思っていた。休み時間には自分の席で本を読んでいたし、昼休みはいつも図書室にいた。家に帰っても誰かと遊ぶこともなく、ただ本の世界に没頭していた。それで良いと、充分に幸せだと思っていた。
 他の女の子たちのように、他愛も無い話をして、一緒にどこかに遊びに行くような関係に憧れる気持ちが一切なかったのかといえばそういうわけではない。
 ただ、小学生の頃のようにいじめられるようなことになったり、のけ者にされるくらいなら、最初から一人でいた方が気が楽だ。
 そう本心から思っていた。
 そんな真白を変えてくれたのは、高砂たかさご有菜ゆうなという一人の少女だった。
 中学時代から、クラスこそ違ったために話したことはなかったが、真白は有菜のことを知っていた。男女分け隔てなく言葉を交わし、仲良くなっていく彼女は、真白にとって太陽のような存在だった。
 進学してからも、それは変わらなかった。有菜はやはり、知り合いなどほとんどいない新たな環境の中で、すぐに新しい友達を作っていた。変わったのは、真白と有菜の間にあった距離だ。
 偶然、同じクラスになった真白に有菜は友好的に接してきた。同じ中学の出身だったこともその理由の一つだったのだろう。
 有菜にとって、真白はかけがえの無い、唯一無二の親友と呼べるほどの存在ではないだろうと真白は自覚している。有菜にはもっと近しい友達がいるし、自分にも、有菜のお陰もあって数は少ないながらも仲の良い友達はいる。
 だがそれでも、真白にとっての最大の恩人であり友人は有菜であると思っていたし、有菜にとっても、真白は大切な友達のうちの一人くらいには想ってもらえているだろうという程度に自惚れてもいいだろうという思いもあった。
 そんな有菜は今日、学校を休んでいた。
 元気さがウリの有菜にしては珍しい欠席だった。担任の言うところによれば風邪らしいが、最近は風邪のように見えるタチの悪い感染病もあると聞く。
 明日明後日は休日なので、その間にきちんと療養をすればいいと思いながらも、折角だからお見舞いにでも行こうと真白は決意する。どうせどこかに遊びに行くような積極的な友達はいない。
「あ、真白。丁度良かった」
「え? 有菜?」
 ちょうど、考えていた相手に声を掛けられ、真白は驚きの声を上げる。
 見たところ不調なようには思えないが、上気したように赤い頬は、彼女が風邪で休んだことを充分納得できるものだった。
 問題は、頬に熱の残る身体で、外出していることだ。しかも、学校は休んだはずなのに制服を着てもいる。
「あれ?」
 覚えたのは違和感。いつもの有菜とはどこか、少しだけ違う。熱のせい、といってしまえばそれで済む話なのかもしれないが、それとはまた別の違和感だった。
 少々の思索で、真白は違和感の正体に気付く。
 一つは服装だ。放課後にも関わらず制服姿であることについてはとりあえずはいい。問題はその着こなしだった。有菜は真白とは違い、オシャレに無頓着というわけではないが、規律に対してはよくわからない部分で真面目で、制服を崩して着るようなことはなかった。だが、今の有菜はスカートの裾が明らかに短い。少し風が吹くだけで下着が見えてしまってもおかしくないくらいだ。
 もう一つは香り。甘ったるいようにも感じるこの匂いは香水のそれだろう。あまりにも濃いその匂いは良い香りには違いないものの、屋外で、それほど密着しているわけでもないのにこれほど香ってくるのはやりすぎだ。
 どちらも、男女交際に対してやや硬い有菜にしては珍しいを通り越しておかしい。
「どうしたの?」
「うん、ちょっとね」
 そう言うと、有菜は裾の短いスカートを掴むと、おもむろに持ち上げた。
「え……?」
 持ち上げられたスカートの下、有菜は下着を履いてはいなかった。だが、真白が驚いたのはそんなこと・・・・・に対してではない。
 出来の悪い映画のような、どこか現実離れした、しかし現実であることを確かに感じさせる光景。
 有菜の淫裂から、制服のスカートを押し上げるようにしてそそり立っていくのは、男性器によく似た異形。
 おおまかな形は、授業や本などで見たことのある男性器のそれと同様だ。だが、同時にそれは明らかな異形でもあった。
 まずそもそも、女性である有菜に男性器があるという時点でおかしい。陰核クリトリスが大きいとか、そんな域をどう考えても逸脱している。
 テラテラと光を反射する粘液はタコ蛞蝓ナメクジといった軟体生物のそれを思い起こさせた。
 加えて、男性器であれば睾丸があるであろう場所からは無数の細い触手が生え、それらは宿主の淫裂を絶えることなくまさぐり続けている。
 これを異形と言わずに何を異形と言えというのだろうか。
「ゆう、な? そ、それ……」
「これぇ? これはねぇ」
 あはぁ、と。有菜は蕩けた笑みで、間延びした口調で、真白の問いに答える。
「わたしの、ごしゅじんさまぁ。とぉぉぉっても、きもちいいんだよ? だからね、ましろにもわけてあげるぅ」
 本能的な恐怖を得て後ろに下がろうとした真白の動きを止めるものがあった。有菜の膣口から生えた微細触手の群れだった。それらは真白の腰に決して逃がしはしないと言わんばかりに巻き付き、縫い止める。
「あはっ」
 笑いと共に、有菜が近付いてくる。下がることはできない、拒絶の言葉を紡ごうとして、
「んっ!」
 くちゅくちゅと、わざと音を立てるような淫らな唾液の交換。あまりに突然な動きに、唇を奪われたのだと気付くのに、十秒近い時間を要した。
 そしてその時間が致命的なものだったことを真白は悟る。
 初めては好きな人に捧げたかったとか、そんなロマンチックなことを言いたいわけではない。この口付けが、取り返しのつかないものであると感じ取ったのだ。
「ましろのよだれ、おいしぃよぉ」
「有菜、なにを……」
「私も、あんまり詳しいことはわからない、っていうか、どうでもいいんだけどね」
 答える有菜の声は、それまでとは違い、明瞭なものになっていた。
 正気に戻ったのか、と、真白は微かな期待を抱くも、その快楽に蕩けきった顔は先程までとまるで変わらない。
 ただ、必要だからそうなっているのだ。真白を堕とすのに必要であるから、有菜はニンゲンに擬態しているだけ。
「この子に寄生されると体液の成分が変わるらしくてね。唾液も汗も愛液も、物凄く強力な媚薬効果があるみたい。真白ももう、我慢なんてできないでしょ?」
 手空きの触手たちは見た目とは裏腹に器用な動きで真白のショーツをずらしていく。愛液のたっぷりと染み込んだそれは何もせずとも雫を落とす。
「気付いてる? 真白、今すっごいエッチな顔してる」
 弛緩し切った、口腔から涎さえも垂れ流すその貌は、さながら餌を前にした餓えた犬のものだ。あるいは、盛りのついた牝犬、という表現がより近いか。どちらにせよほんの数刻前まで、恐怖に満ち満ちていたものと同一人物のものであるとは誰も思うまい。ましてや、未だ男を知らない処女おとめであることなど信じる者はいないだろう。
 有菜は何も無いはずの虚空に腰を下ろす。膣内から更に湧き出した無数の微細触手が、いびつな椅子のようなものを形作っていた。
 触手に誘導された、真白の秘部は異形へとあてがわれ、座位のような格好となる。
 真白の人間として残された最後の理性が、異形の生殖器の挿入を拒む。だが同時に逃れがたい牝としての本能が、その瞬間を嬉々として待ち望んでいる。
 或いは、その葛藤は異形の与えた悪辣な選択肢だったのかもしれない。
 与えられた選択肢は快楽への屈服ただ一つ。そこに拒絶という選択肢は存在しない。だが、僅かながらに理性を取り戻した真白は、その選択肢を強制されるのではなく、自分で選ぶことになる。堕とされるのではなく、自らの意思で堕ちていく。
 葛藤は、数秒と続かなかった。
 更なる快楽を得るために、真白は理性を持って本能に従う。
 舐めるように淫裂をなぞっていた牡棒を受け入れるため、真白は腰を落とす。腰に巻き付いた微細触手は、まるで真白をリードするかのようにその動きを助ける。
「ッ!」
 先端が入っただけだというのに凄まじい快感が訪れる。真白とて、自慰の経験くらいは少なからずある。誰にも言ったことはないが、同年代の平均よりもその頻度は多いかもしれない。だが、それによって得られた絶頂とこれとは、同じものなのか疑問に思えるほどに違った。
 意を決して、深く腰を落とす。処女の喪失に伴い破瓜血が流れ出すが、真白も有菜も、そんな些事は気にも留めない。有菜の媚薬体液によって高められた性感は、破瓜の激痛すらも極上の快楽として脳に伝えていた。
 あまりの快感が、神経系を侵していく。このままでは死んでしまう、と。真白は思った。同時に、この快感を得られるならば死んでも良い、とも。
 意識するまでもなく、真白の腰は上下する。有菜も、真白の完全な堕落に満足してか、己の腰を動かし始め、細い触手の群れも挿抜の動きを補助する。可能な限りの快楽を得ようと、ただそのためだけに二人の――否、二匹の牝は淫らに踊る。
 打擲音と、淫らな水音と、嬌声が加速していく。無数の絶頂の末に、有菜から生えたソレが真白へと精を放つ。それが実際に精液そのものとは限らないが、今の彼女にとってそれが何であるのかという情報は価値のないものだった。
 大切なのはソレを受け入れることが気持ち良いということ、ただそれだけ。一際大きな絶頂が訪れ、真白の思考は断裂する。
 しかし、暗転した意識はすぐさま取り戻される。それはひとえに、意識を失えば快感を得られないという、ただそれだけのための意識の復旧。
 どくん、どくん、と、液体が流し込まれていく。産卵管が脈動するたびに、思考を焼き切れんばかりに快楽が走り抜ける。もはや真白は、延々と絶頂し続けていた。
 不意に、淫液に混じって固形の何かが自分の中へと入ってきたのを感じる。予備知識などなく、しかし真白は、自分が産卵・・されたのだと理解を得る。
 胎動する卵は、子宮の中で、それが確かに存在していることを伝えてくる。
 そこで真白の心中に生まれたのは、今までに持ったことのない感情。だが、それを何と言うのか、彼女はまさに本能的に理解していた。
 母性である。
 自らの胎内に確かに在る生命いのちを、尊いと思う。本来、自然な流れをもって得る母性とはかけ離れていながらも、彼女はその母性を疑うことすらない。
「ねぇ、真白? ご褒美・・・、欲しい?」
 唐突に、有菜が声をかけてくる。もし、悪魔が囁く契約があるとすれば、それはまさにこんな誘惑なのだろう。
 かくかくと、壊れた人形のように真白は頷く。
 だが、
「駄ぁ目」
 有菜はそう言って、屹立した生殖器を淫裂へと仕舞いこんでいく。その一挙手一投足すらも快楽なのか、有菜の口からは嬌声と涎が、膣口からは粘度の高い淫蜜が雫となって地面へと落ちていく。
ご褒美・・・、欲しい?」
 先程と同じ、有菜の言葉。しかし真白はその言葉の示す意味を理解した。
 快楽・・はご褒美なのだ。ご褒美をもらうためには、やるべきことをしなくちゃならない。
「うん」
 母親が、子供に授乳をするように、自分も、お腹の中のご主人様・・・・に栄養をあげなくてはいけない。
 栄養価のあるものを食べる? いいや、そんなものでは足りないし、もっと簡単で、副次的な利益を伴うものがある。それを彼女は知っている。その味をまだ知らないが、だが確かに知っているのだ。
 精だ。牡の生命に満ちた精。それを取り込むことで充分な栄養となるし、同時に心奥より沸々と湧き上がる一つの欲求も解決できる。即ちは――淫欲を。
 自らの牝穴で牡を咥え込み、その精を搾り取る。想像するだけでも淫蜜が止め処なく溢れ出し、ストッキングを経て足元に水溜りを作っていく。
 思わず秘裂へと、右手が移動する。邪魔になったショーツを力任せに千切ると、無造作に捨て置く。
 大量の吐精を受けたことで、膣内からは白濁した液体が流出を続けている。それを勿体無いと思いながらも、内側へと入っていく指を止めることはできなかった。
「ん……っ」
 訪れるオルガムスに、得るのはひとまずの満足と、更なる快楽への渇き。
「あはっ……」
 真白は微笑む、淫堕に蕩けた切った心で。
 まずは一度家に帰って、服を着替えて、それから獲物を見繕うことにしよう。 
 そう考えて、少女は自宅へ向かって歩き出した。淫蜜をその軌跡に残して。


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