「ん、うぅン……」
 艶っぽい声が漏れ、心地良い眠りから意識が少しずつ浮上していく。
 もう少し眠っていたいという無精な気持ちが生まれるが、それを押さえつけまぶたを開ける。
 寝ぼけ眼で周囲を見回し、その場所がいつものものとは違うことを理解する。見知った自分の部屋ではない。広さは十畳ほどあるだろうか、白塗りの壁にリノリウムの床は病院のそれを連想してしまうものの、窓のない閉塞的な雰囲気はそこがそういった場所ではないことを示していた。
 着ている服も就寝時用のパジャマではなく外行きの普段着、その中でお気に入りの一着だ。
「なんだろ、これ……」
 感じ取ったそれ・・が嫌な感じであることに気付くのに、浅海が数秒を要したのはただ寝ぼけていたというだけでは説明がつかない。
 完全に覚醒した浅海は自分の身に起きている現状の整理に入る。いまひとつ記憶がさだかではない。
「家に、帰って……」
 珍しく泉美が先に帰っていたのだった。一緒に夕食をとって、そのあと、
「っ!」
 順に記憶を追って、ようやく思い出す。すぐに思い出さなかったことがおかしいほどの、重大事。
 最愛の妹である泉美がアンラ・マンユの手に堕ちていた、ということ。夢であって欲しかった。夢であると思いたかった。だが、今浅海の鼻孔につく生臭さは、昨晩も嗅いだ牡と牝の性臭に他ならない。そう認識してしまえば、この場所の性臭は恐ろしいものだった。
 まるで記憶や感覚を操作されているような不快感。
召喚コール探査魔サーチャー
 呪文を口にしても、何も起こらない。精霊騎巧エレメンタル・ギアは一切の反応を返してはくれない。ディバインシスターズとして戦ってきた浅海だが、精霊騎巧の助力なしには何の魔術も使うことができない。
「それにしても、ここは……」
 何処だろう、と、浅海は思う。少なくとも自分の家ではない。
 だとすれば、アンラ・マンユの秘密基地か。
 何をするにしてもまずはこの部屋から出るしかない。そう思い、ベッドから起き上がると、たった一つの扉を開ける。
 その瞬間、浅海の背筋を悪寒という表現では足りないほどの、嫌な感じ・・・・が襲った。その正体が何なのかはわかる。この場所が常識の範囲に収まる場所ではないことがはっきりとした。
 探査用の使い魔を出したり、精霊騎巧を着装するまでもなく、強い魔力を感じ取ることができる。異常、そう言っていいほどの凄まじい魔力密度。
「やっぱりここは、アンラ・マンユの拠点……」
 そう考えるのが自然だった。だとすれば、一刻も早く逃げる必要がある。
 まずは皆に連絡をして合流、しかる後に妹や、母を救い出す。二人を残して離れることには抵抗もあるが、一人でどうにかできる状況ではないことくらい浅海にはわかる。
 改めて自身の身体を探ってみるものの、当然と言うべきか、携帯電話はどこにもない。わかってはいたものの、落胆せずにはいられない。
 ともかく、外に出さえすれば連絡の手段はいくらでもある。そう思って施設内を歩き回ってみるものの、一向に出口は見つからない。出口どころか、別のフロアへと移動する手段さえも見つからない。自分が出てきた部屋も、もはやどこかわからず、あるのは廊下だけ。
「一体、ここは……」
 一時間ほども経っただろう。長い廊下をひたすらにまっすぐに歩き続けていると、聞き慣れた声が耳に入ってくる。
「お姉ちゃん、起きたんだったらご主人様にご挨拶しなくちゃダメなんだよ。まぁ今のお姉ちゃんに言っても無駄だろうし、もう少ししたら自分から進んでそうするようになるんだけど」
「泉美……」
 愛する妹の姿に、浅海は思わず嫌悪感に眉をひそめた。
 泉美の着ているのはライブ用の妖精衣装だ。本来ならばその可愛らしさを強調するはずの洋装は、女性にとって大事な部分ばかりが切り取られた卑猥極まるものに成り下がっていた。頭のてっぺんから足の先まで、まるで精液のプールにでも入ったかのように全身に至って牡汁にまみれているのがわかる。一メートル以上離れているにも関わらず、顔をそむけたくなるような淫臭が鼻をつく。こうして話している間にも股間からは絶え間なく愛液が流れ出し、ぴちゃぴちゃと足元に水たまりを作っている。
「……でも、お姉ちゃん気付いてる?」
「気付いて、何によ?」
「ふふ、やっぱり気付いてないんだ。まぁそうだよね」
「何の話をしてるの!」
「お姉ちゃん、さっきからずーっと、おんなじところをぐるぐるまわってるだけだよ?」
「何、を……」
「それにね、お姉ちゃんにはものすごーい広い秘密基地に見えてるのかもしれないけど、ここ・・はウチだよ。広さは何も変わってない」
 そんなはずがない、と浅海は泉美の言葉を否定する。
 自分は一時間ほどもずっとまっすぐ歩いていたのだ。浅海の家にはとてもではないがそんな広さはないし、それ以前に自分の家と見てわからないなどということはありえるはずもない。
「言ったでしょ。精神ココロはともかく、身体についてはもう、私の、うぅん、ご主人様・・・・の思いのままなの。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触角。五感なんてものは身体がそれぞれの感覚器で受容した感覚を電気信号に変換して脳がその信号を受け取ることでそう・・であると思うだけ。ご主人様がちょっと感覚を弄っちゃえば、こんなもの」
 泉美の語ったことに確かに矛盾はない。
 あくまで感覚というのは電気信号の集まりではある。しかし、それを操ることができるなど信じがたいことだ。
「だからお姉ちゃんはディバインブルーに精霊着装エレメント・セットすることもできないし、他のディバインシスターズにピンチを伝えることもできない。私たちにエッチなことをされて、いやらしいことと、ご主人様に隷従することしか考えられない奴隷になるの」
 浅海が思索に耽る間も、泉美の言葉は続く。
「心の底まで躾が行き届いたら、お姉ちゃんの手で精霊戦隊ディバインシスターズを壊滅させるの。そうして性隷戦隊スレイブシスターズの完成ってわけ」
「……私は」
 変わり果てた妹の姿に義憤を抱きながら、
「私は、負けない、絶対に!」
「そう言うと思ったよ。でもね、無理なんだよ。うぅん、違うかな。勝つとか、負けるとか、そういうものじゃないの」
 周囲の景色が歪む。見慣れない景色が、見慣れた自宅に上書きされていく奇怪という他にない光景。
 それだけで、泉美の言葉が真実であることが証明された。なんということはない、移動さえもしてはいなかった。浅海は自分の部屋にいた。
 恐怖。自分の感覚さえも信じられないという経験したこともない恐ろしさ。いや、正確には全く経験したことがない、というわけではない。幻惑系の怪人が視覚や聴覚を惑わしてきたことはある。しかし、あのときは精霊騎巧があった。精神を用いた五感とは異なる感覚器官が、五感以上に周囲の現実リアルを伝えてくれた。だが、今はその精霊騎巧も応えてはくれない。
「あ……」
 思わず後ずさり、ベッドに倒れこむ。
「あはっ」
 それを見た泉美が、ゆっくりと浅海に覆い被さった。自分と比べて少々控えめな胸を押しつけ、唇を奪う。
 突然の出来事に、思考が追いつかない。どうするべきかと考える間もなく、淫らな舌使いで口内を蹂躙される。その舌技は、ほんの昨日まで男性経験のなかった少女のものであると言っても誰も信じないであろう卓越したものだった。まるで性器を直接触られているかのような快感が襲い、そして対応の時間すら与えられず、思考がスパークした。
「んっ……」
 泉美が唇を離すと、名残惜しげに粘度の強い唾液が橋をつないだ。
「お姉ちゃん、今イッたでしょ?」
 泉美の問い掛けに、浅海は答えられない。認めるわけにはいかない。
 答えようとしない浅海に、泉美は追及するでもなく微笑む。
「まぁいいよ。どうせすぐに素直になるんだからね。入って」
「お兄、ちゃん……」
 泉美に促されて部屋に入ってきたのは浅海や泉美の兄、高梨史郎だった。
 二人よりも五つ年上であり、既に家を出て結婚もしている身だ。やや年が離れていることや、男と女という違いから泉美ほどには行動を共にしていたわけではないが、それでも他の友達などの話を聞く限りでは充分に仲の良い兄妹だったと言える。幼年期にはよくある「大きくなったらお父さんと結婚するんだ」というような発言は、高梨姉妹においていえば「大きくなったらお兄ちゃんと結婚するんだ」だった。
 結婚が決まったときにはとても嬉しかったものだ。そんな兄が今、目の前にいる。
 しかしその瞳には常の優しさは見当たらない。どこかやつれつつも、苦痛と狂気が混在しているように見えた。
「そ、お兄ちゃんだよ」
「お兄ちゃんに、何をしたの?」
「お姉ちゃんにしたのと同じ。身体を操らせてもらってるんだよ。意識はあるけど、自分の意思じゃ喋ることもできないはずだよ。まぁ、もし解放してもまだマトモに喋れるかはわからないけどね。自分の口で郁美さんのことをレイプするように依頼して、その上で私とママと、あとFairy taleのみんなでたっぷりザーメン絞り取ってあげたからね。精魂尽き果てる、ってこういうことを言うのかな」
 嬉しそうに、男好きのするいやらしい笑みを浮かべて泉美は兄の受けた仕打ちを語る。
「郁美さんはもうすっかりエッチな牝に堕ちちゃったから。今は私たちのファンの人たちに輪姦されてるところだと思うよ」
「そん、な……」
「あ、ザーメン不足を気にしてるんだったら安心して。少しカラダの方もイジって、いくらでも射精できるようにしておいたから大丈夫。タネが尽きることはないから死ぬまではいくらでも楽しめるよ。お姉ちゃんは欲張りだなぁ。まぁ、私のお姉ちゃんでママの娘だもんね、淫乱なのは当然だろうけど」
 的外れなことを説明する泉美は否定の言葉を聞き入れるつもりもないのだろう、そこまで言って冷徹に一言。
「じゃあお兄ちゃん、お姉ちゃんのこと、犯っちゃって」
 それだけ言うと、泉美は椅子に腰掛ける。命令を受けた兄は下卑た笑みを浮かべてペニスを取り出し、浅海に迫る。
 抵抗しようとするが、内部から操られた身体がそれを許さない。
「お姉ちゃん、ちゃんとオマンコ見せて入れやすいようにしなきゃ」
 誰がそんなことを、と口にすることもできず、浅海の身体は自身の意思を無視して動き始める。上着をはだけ、邪魔なブラジャーを取り払って豊満な胸を見せつける。パンティを脱ぎ、スカートをたくしあげ、両足をM字に上げて準備を済ませる。無毛というほどではないが薄めの花園に、泉美と兄の熱を帯びた視線を感じ、思わず顔が上気し、心なしか湿り気が生まれる。
 浅海とてオナニーくらいしないわけではないし、性交に興味がないというわけでもないが、彼氏はいないし、いた経験もない。
 はじめてを兄に、それも妹の前で奪われるとは思ってもいなかったし、今でさえそれを現実として受け止めることができない。
 意識はそれを拒んでいるものの、浅海の性器は淫らな蜜で入口を湿らせ、血の繋がった実兄のペニスの挿入を待ち望んでいた。
 兄のペニスがヴァギナに触れ、そのまま挿入する。誰一人にも許したことのないそこは異物の侵入を拒んだものの、遠慮のない動きは膣を犯し、処女性の象徴たる膜を容易く破る。
 全身の感覚器に至るまでを操られた浅海は、破瓜の激痛ですらも凄まじいまでの快楽として受容していた。その相手が実兄という背徳感がその快楽を倍増させる。
「い、やっ……」
 弱々しい抵抗は何の意味も成さない。
 正常位のまま、兄は腰を打ちつけてくる。肌と肌のぶつかり合う打擲音。ペニスが奥へ、奥へと突きこまれるたびに、浅海は軽い絶頂感を味わっていた。
 絶頂感が水ならば、感覚器を操作され、脳内の信号の乱された今の浅海の快楽への欲求は砂漠のようなものだった。どれだけ絶頂を感じたところで、一向に満たされることはない。
 そのまま、どれだけの時間が経っただろうか。
 何度絶頂を迎えたかわからない。騎乗位へと体位を変え、腰を振っていたのは兄ではなく浅海自身だった。望まない快楽に心の中で抵抗しながらも、身体は貪欲に絶頂を求めて腰を振り続ける。
「あぁ、言い忘れてたけど、お姉ちゃんの精霊騎巧エレメンタル・ギアにはちょっと細工をしてあってね。膣内射精ナカダシをされるとその人の魔力を強制的に発散、吸収するように改造してあるんだ」
 言葉が意味することを、浅海は理解しない。できない、ではなく、しない。
 理解してしまえば押し潰されてしまいそうだから、意識的にその意味を忘れて、腰を振り続ける。
 あるいは、本当にアンラ・マンユと戦い続けるならば、兄のペニスを抜き、戦うべきだ。だが、そうすることはできない。それどころか、振り続ける腰を止めることもできない。
 身体を操られているのだから仕方がない。そう自分に言い訳しつつも、本当はわかっている。今、自分の身体は自分の支配下にある。やめようとすればやめられるし、戦おうとすれば戦えるのだと。
 だが、それを選ぶことはできない。
 気持ちが良いのだ。それまでに感じた、どんなことよりも。
 人を助けたり、親切なことをしたときに感じる心地良さとはベクトルも違うが、それ以上に桁の違う圧倒的な快楽。
 あるいは、泉美の言葉の意味を理解しているからこそ、この心が満たされていっているのか。
「ぁ、は……」
 漏れたのは、吐息にも似た、笑声。
「あは、は」
 狂ったような笑いは、途切れることなく大きくなっていく。
「あはははははははははははははは」
 笑声を上げながら、浅海は気狂いのように腰を打ちつける。
「ぅ、んっ……」
 浅海の絶頂に伴って、その膣が収縮、絶頂に導かれた兄のペニスがその意思に反して白濁した欲望の塊を吐き出す。
 びゅるびゅると、吐精というよりも小便のような勢いで牡棒が精を吐き出していく。生まれたのは光。魔力の塊だ。指向性を与えられていない純粋な力が、漏れ出したことによって発光という物理現象として発現しているのだ。
 魔力とは精神が持つ力を生成したものである。そこに指向性を与えることによって様々な、物理法則を超越した現象さえも励起させることができる超常の力ではあるが、その根源たる力の源は生きとし生けるもの全てが持つ生命力に他ならない。
 絞り取る、という表現まさしくそのままに、精を、生を、奪い去り、大好きだった兄の命を、その淫唇で削っていく。
 渇いた心が満たされていく。これだ。自分が求めていたのはこれだったんだ。そう気付く。
 いつからか狂笑は、歓喜の笑いに変わっていた。
 命を奪うという行為に嫌悪を抱くどころか、むしろその事実そのものに悦楽を覚える。
 そうだ。浅海もわかっていた。射精のたびに兄の顔から生気が失われていくことに。だが、それを理解していたからこそ興奮していたのだ。
 全能感、とでも言うべきだろうか。自分が他者の命を思うがままにできる存在であるという事実への優越感。
 それを感じただけで、浅海は更に意識をトリップさせる。
 浅海は自分が堕ちていくことを感じていた。だが、そこに抵抗することはできないし、そんなこと・・・・・をするつもりもなかった。
 洗脳寄生蟲コルディセプスが与えてくる、平常下ではどうしたところで得ることのできない究極の肉体的な快楽と、命を弄ぶことに対する精神的な快楽。
 それだけで充分だった。
 他の全てを、正義も、使命も、倫理も、仲間との絆も。あらゆるものを捨ててもいいと思えるほどの圧倒的な快楽。
 価値観が崩壊し、快楽に塗り替えられていく。
 性の悦楽にずっと浸っていたい。もっと、もっと多くのヒトの命を奪いたい。
 堕とされるのではなく、自分の意思でりていく。
「あ」
 何十回ともいう射精の末に、動かなくなった、兄であった死骸モノに冷たく一瞥をすると、熱を失っていくペニスを膣から抜く。射精もできず、硬さを維持することもできないペニスなどバイブにも劣るゴミでしかない。
「あ、ご主人様」
 嬉々とした泉美の言葉に、視線を動かす。
 いつからそこにいたのだろうか。
 地味な色の外套を身に纏い、禍々しい尻尾・・を持った男――ワスプ。
 目にするのは初めてだが、彼がアンラ・マンユの怪人、それもかなり高位に位置する存在であることはその存在感からして想像するのも容易い。
 精霊の戦士ディバインシスターズとして、泉美の姉として、倒すべき敵である。
 しかし、それ・・が自分の仕えるべき主人なのだと、心の深奥が教えてくれる。
「あ、ぁ……」
 子宮が降りてくるのを感じる。精にまみれた股から愛蜜が潤、と溢れ出す。
 彼が、否、この方・・・こそが、自分のことを最も満足させてくれるご主人様・・・・なのだ。理性ではなく、本能がそれを悟ってしまう。
 歯向かうことなど思考の中にはなかった。ご主人様の命令に従って仲間だった・・・者達を自分や泉美と同じ牝に堕とすことや、何の罪もない人々を鏖殺することを考えると、それだけで絶頂に達してしまう。だが、肥大した欲望は数度の絶頂程度で満足を得ることなどできず、思わず大ぶりな胸と精汁だらけの秘裂を弄り自慰をはじめる。
「堕ちたか」
「ご主人様……」
 そう口にするだけでただでさえ垂れ流しとなっている股間の愛蜜が更にその量を増す。まるで小便でも漏らしたかのようにすら思える。
「私、精霊戦隊ディバインシスターズ、ディバインブルーこと高梨浅海はご主人様とアンラ・マンユに心からの忠誠を誓い、隷属させていただきます。どうか、妹、母共々淫らな私を牝奴隷として扱い、ご奉仕させてください」
 隷属の言葉を告げただけで、得も言われぬ多福感と快感が浅海の心を覆い尽くす。
 その言葉に満足したのか、ワスプは笑みを浮かべ、
「良いだろう。自らの欲望のために兄を屠り、あまつさえそこに快楽を見出すその淫乱さ、邪悪さ、想像以上の出来上がりだ。泉美」
「はい。ご主人様」
「よくやった」
「ありがとうございます」
 寵愛の言葉を授かり、深くこうべを垂れる妹の姿に嫉妬を覚えながら、指の動きは加速していく。
「お姉ちゃん、これを」
 言って、泉美が何かを浅海へと手渡す。自慰に浸り、牝汁でふやけた手でそれを受け取る。
「これは……」
 何か、と問うまでもない。それはエナメル質の首輪だった。
 犬や猫につけるものとは違う、明らかにそれは、人に、もしくはヒトであった奴隷モノにつけるために作られた首輪だというのがわかる。
 ほんの一日、ほんの数時間前の浅海であれば、断固として拒否していたことだろう。だが、堕ち切った浅海はそれを拒絶するどころか、隷属の証たるそれを嬉々として受け取る。
「ありがとうございますご主人様。あの、その、よろしければ……ですが……」
「可愛い奴だ。良いだろう、つけてやる」
 言葉の意図を汲み取ったご主人様が
 幸福に瞳を煌めかせ、浅海はその首輪をワスプへと手渡す。ワスプはそれを受け取ると、丁寧に浅海の首にとり付けた。
「んっ、ぁあ……」
 ヒトとしての尊厳を踏みにじられるマゾヒズムの快楽に、浅海は再び気をやる。横からは泉美が恨めしげに浅海を見ているが、いくら最愛の妹とはいえご主人様からの寵愛を分けてやる気などはさらさらない。どうせ自分もご主人様手ずからにつけていただいたのだろう。それどころか、ご主人様自身の手で堕としていただいたのだとすればこれだけでは五分にもならない。
「ではディバインブルー……いや、奴隷のスレイブ青色ブルーとでも呼んでおこうか」
 ワスプ自らに名付けてもらう幸福と、隷属の歓喜を感じる。
「スレイブブルー、最初の命令だ。お前の仲間だった者たちを、お前と同じ淫乱な牝に仕立て上げる。お前にはその手伝いをしてもらうぞ」
「ご主人様の仰せのままに」
 その光景を想像するだけでも絶頂を極めそうになるところを、忠誠からくる自制心で押し留め、浅海は恭しく頷いた。


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