第拾弐話『両性』
遠からず聞こえてくる女性の嬌声に、千堂梨緒はうすぼんやりとした意識を目覚めさせた。
起き上がろうにも、四肢は粘液質の何かによって拘束されている感触があり、全く動かせないというほどでもないが体の自由は完全に奪われていた。
動かせるのは視線だけ。しかし視界の中にはなんら変わったものはない。見渡す限りはごく普通の部屋だ。
少しずつ、梨緒の意識は覚醒していく。
そして、自らが気を失う前の状況を思い出した。
「私、公園で誰かに……」
皐月と話していたところを誰かに襲われて気を失った。
そこから導き出せる結論は一つしかない。
「……誘拐されたの?」
「あら、目が覚めたみたいね」
梨緒の声に気付いたのか、その声は明らかに梨緒に向けられている。
「おっと、そのままじゃ話しづらいわね、体勢を変えましょうか」
そう女性の声が言うと、四肢を拘束するナニカが動き出す。
ナニカに持ち上げられた梨緒の体はリクライニングチェアにでも座っているかのような体勢をとらされる。
自分の体が自分の意思の外で動かされることに不快感以上に恐怖感を覚える。
目が覚めてくれば、そもそも自分が何で拘束されているのかという疑問にも気付く。
体勢の変更によって自由になった首を動かし、自らを拘束するソレの姿を見ると、その疑問は氷解し、梨緒は不快感に顔をしかめた。
触手だ。
イソギンチャクやクラゲなどの、主に下等生物が持つ器官の一つであるそれはしかし、少なくとも梨緒が見たことがないほどに巨大だった。
太さにして三センチを超えるそれはテラテラと粘液の光沢を纏っている。
「なに、これ……」
「触手よ。英語で言うとテンタクル。ちなみに私はアマノウズメ。ウズメとでも呼んでね」
けらけらと笑いながら少女――ウズメはそう告げる。
顔の作り自体は梨緒と同じくらいか、少し上程度に見えるものの、それにしては醸し出す雰囲気があまりにも妖艶に過ぎた。
それだけで、梨緒はウズメが異常な存在であることを理解する。
「ここ、どこ? 何のために私をさらったの?」
「どこかって言うとサダヒコん家。何でさらったかって言うと、アナタをいやらしい女の子に調教するため。そんな答えで満足かしら?」
「ちょうきょ……何を言ってるの? 頭湧いてるんじゃないの?」
悪態をついて返しながらも、梨緒は自らの秘裂が湿気を帯びてきていることを感じ取り、驚く。
梨緒も人並みには性に対する興味を持っている。彼女の言葉が意図するところがなんなのかを全く理解することができないというわけではない。
だがだからこそ、そんなことを現実に考える者がいるということは信じがたくもあった。
「ははは、羅刹にもそんなこと言われたなぁ。でもまぁ、冗談でも何でもないのよ」
受け答えの間にも嬌声は絶え間なく梨緒の耳に届く。
嫌な予感が梨緒の脳裏を覆っていく。
「……お姉ちゃんは? 皐月お姉ちゃんはどうしたの?」
自分と同じように誘拐されたであろう友人の所在を問う。
彼女には皐月がウズメの協力者、それどころか今回の筋書きを立てた人物であることなど知る由もない。
問い掛けに対するウズメの返答は笑み。
「知りたい?」
「お姉ちゃんに何をしたの! 教えないと……」
「教えないなんて言ってないじゃないの。アナタのお姉ちゃんはお隣の部屋にいるわよ。元気な声も聞こえてくるでしょう?」
認めたくはなかった、しかし心の奥底では気付いていた事実を突きつけられる。
恐怖と、それ以上の怒りの気持ちが梨緒の心に広がっていく。
「すぐにやめて!」
「嫌よ。そもそもやめろって言われてやめるくらいなら連れてこないわよ」
淫蕩な笑みを浮かべてウズメは梨緒の要望を一蹴する。
元より聞き入れてもらえるとは梨緒自身も思っていなかったが、返しの言葉が妙に正論だったことが気に食わなかった。
「あぁ、でも」
首をかしげ、顎に手を当てながら、思い出したようにウズメは声をあげる。
「月並みで悪いけどね、代わりになる誰かがいるんだったらやめてあげてもいいかなぁ、ってね」
「っ……」
「で、どうするのかしら?」
自分と友人の貞操を天秤に掛けて、迷いなく自分の貞操を捧げられるほどに梨緒は人格者というわけではない。
だが、だからといって見捨てることが出来るほどに薄情でもなかった。
もし、共に捕えられているのがもっと疎遠な友人であれば自らの貞操を優先したかもしれない。しかし、梨緒にとって三嶋皐月という人間は実の姉以上に親しみを持てる相手であった。
逡巡は僅か。すぐさま答えを出し、梨緒は頷く。
「私が代わりになるから、皐月お姉ちゃんに酷いことしないで」
「まぁ、やらないって言ってもアナタを調教することには変わりなかったんだけどね」
「卑怯者……」
「安心して。でも梨緒ちゃんが素直に頷いたから私はとりあえずサツキには何もしないわよ。友達思いなのね、梨緒ちゃんは」
そう言って、ウズメは梨緒に近付いていく。
「何を、するつもりなの?」
「ふふ、すぐわかるわよ」
耳元で笑いながら言うウズメの手にはグロテスクな見た目をした、十センチほどの肉塊が乗せられている。
四肢を拘束している触手のそれに似た表面光沢を持つそれが何であるのか、梨緒にはわからなかったが、ただロクなものではないということだけは本能的に理解していた。
「何、それ?」
「ナニ、なんてね。梨緒ちゃんを立派なビッチにするために素敵なプレゼント」
ウズメは唐突にその肉塊を梨緒の秘部に押し付けた。
その瞬間に肉塊は突然無数の触手と化して広がり、パンティーを避けて秘裂へと殺到する。
「ひっ!」
生理的嫌悪感に耐え切れず、梨緒は声を漏らすも触手にそんなことは関係などない。
「これまた小説なんかでよく見る月並みなもので悪いけれど、アナタを拘束していた触手の分泌液は媚薬になるのよ。皮膚から浸透した媚毒は相手を強力に発情させるわ」
触手たちは梨緒の意思とは反対に、受け入れる準備を済ませた秘裂の中へと潜り込んでいく。
「いや、いやっ!」
「梨緒ちゃん処女でしょ。触手に処女奪われるのなんて嫌よね」
「あた、当たり前でしょ!」
満足げな笑みを浮かべたウズメが問い掛けてくるのを恐怖の表情を浮かべながら返す。
彼女が指示を出しているのか、触手の侵攻は中途で止められていた。あと少しでも進めば処女が失われるという恐怖を感じつつも、もしかすればやめてくれるのではないかという微かな期待を込めて、ウズメを見る。
「でもやめたげない」
無情な言葉。
それを合図としたかのように触手がその動きを再開し、一瞬、梨緒はその意識を飛ばした。
触手の群れは処女膜などなかったかのように暴力的な勢いで膣内を犯していく。
「ぁ、いや、いやぁ……」
思考が散乱する。
ただただ、自分が処女を失ったのだということと、そしてよりにもよってその瞬間に絶頂を迎えてしまったということに絶望を感じる。
だが、触手の動きは容赦なく続く。その動きは犯すというよりはむしろ、根を張るようであった。
「な、これ……」
しばらくの間梨緒の膣内を犯し続けていた触手たちは、いつの間にかその姿を梨緒の体内へと移し切っていた。
「ちょっと、どういうこと、これ、いや……」
断続的に与えられる快楽に戸惑いつつも、拒絶の言葉を吐き出す。
その疑問への答えはすぐに、それも梨緒にとっては考えられる限りの最悪を超える形で表れた。
淫裂から触手が飛び出し、絡み合い、まるで肉棒のような姿をとったのである。
「う、そ……こんなの、嘘でしょ?」
「嘘じゃないわよ。それはアナタの触手オチンポ。もちろんこの通り」
言って、ウズメは梨緒の淫裂から生える触手ペニスをしごく。
するとこれまで感じたことのないような快感が梨緒の思考を焦がした。
「なにか、なにかクるぅ!」
思考を介さず無意識の内にそう叫ぶと、触手ペニスは精を吐き出した。
「……こ、これ、は……」
「例の如く月並みなものよ。触手チンポの感覚はアナタの感覚に繋がってるってわけ。さて、梨緒ちゃんはどのくらいまで耐えられるかな?」
楽しそうに告げて再開される手淫。
「え、ちょ、や、らめ、やめれ、やぁあぁぁぁぁ」
慣れた様子のウズメの手つきに、梨緒はさほどの時を待つことなく再び絶頂を迎え、白濁した液体を触手ペニスの先端から大量に吐き出した。
だが、ウズメはそれだけでやめたりなどはしない。
絶頂を向かえ、真っ白になった思考が正常に戻ろうとするとまたすぐに手淫を行い、梨緒の思考を絶頂の波に捕えて離さない。
「じゃあそろそろ放してあげるわね」
時間にして十分、回数にすると二桁を超える絶頂を迎えた梨緒に、ウズメが笑って告げる。
四肢を拘束していた触手が解かれ、自由の身となるものの、絶頂直後で弛緩した体では拘束されていようといまいともはや関係ない。
それどころか、逃げ出そうという発想すら生まれることなく、ウズメの成すがままに弄ばれる。
普通であれば萎えきっていてもおかしくないというのに、異常な存在である触手ペニスは萎えるどころか最初よりも尚、硬さをまして屹立していた。
「うふふ、美味しそう。じゃあ、お待ちかねのオマンコ、いってみようか」
「え?」
まさか、という言葉を言い終える前に、ウズメの淫裂が梨緒の触手ペニスを咥え込む。
零れ落ちるほどに濡れそぼった淫裂は一切の抵抗を見せずに梨緒の触手剛直を受け入れていく。
あまりの快感に亀頭部分が入っただけで、梨緒は軽い絶頂を迎えた。
ゆっくりとゆっくりと、焦らすようにしてウズメは触手ペニスを呑み込んでいく。
最深部まで達すると、ウズメはその動きを止めた。
「え?」
意外なことに、思わず声が漏れる。
「どうしたの梨緒ちゃん?」
いやらしい笑みを浮かべて、問い掛けるウズメ。
彼女が何を言わんとしているのかは梨緒にもわかっている。
そして梨緒自身、ウズメによって与えられる快楽が好ましいものであるとも思ってしまっていた。
「なんでも、ないわよ」
「そ。じゃあちょっと休憩ね」
膣内に触手ペニスを咥え込んだ体勢のままで、ウズメは鼻歌を歌い始めた。
そのまま時間だけが流れていく。
十分経っても、三十分経っても、ウズメには一向に再開する様子はない。
生殺しの状況に、梨緒の我慢はいよいよ限界を超えた。自ら腰を突き上げ、ウズメの膣を犯そうとする。
「あらあら。そんなに私のオマンコ犯したいの?」
腰を押さえつけ動きを制したウズメは梨緒に問い掛ける。
数秒の迷いの末、梨緒は頷いた。
一度でも認めてしまえばもう理性など意味を成さない。
「そう、そうだからぁ! はやく、はやくぅ!」
わめき、懇願する梨緒に対して、ウズメは立ち上がって膣から触手ペニスを抜いた。
「ぇ?」
認めてしまえばあの快楽が得られる。
そう思っていた梨緒にとっては意外であり、そして絶望を与えるのに充分過ぎる返答だった。
「ねぇ、そんなにオマンコ犯したい?」
「犯したい! オマンコ犯させて!」
「じゃあ、さ」
淫蕩な笑みを浮かべ、ウズメは部屋の襖を開け放つ。
繋がった隣の部屋には裸身のまま拘束された皐月の姿がある。
「あ、ぁ……」
「梨緒ちゃん、あんなところにいいオマンコがあるけど、どう?」
そんな問い、答えを返すまでもなかった。
*
それだけの力が残っていたのであれば逃げ出せたのではないかと思えるほどの瞬発力を見せて、梨緒は皐月へと獣のように襲い掛かった。
その姿からは僅かな理性すらも見て取れない。あるのはただ性欲だけ。
横から見ていたウズメはそれを見て、思わず苦笑する。
皐月は性欲を刺激したり様々な術式を使ったところで堕とすことができなかったというのに、梨緒はさしたる手間も掛けずに堕ちた。
貞彦という想い人の存在の有無も大きかったのだろうが、それ以上に精神力の差だろうとウズメは思う。
むしろ梨緒の方が当然の反応だ。
「梨緒ちゃん? どうしたの? え……?」
頭上に疑問符を浮かべるようにして問いを向ける皐月を無視して、梨緒は触手ペニスを秘裂へと埋めていく。
「どうしちゃったの梨緒ちゃん!」
「皐月お姉ちゃんのオマンコにいっぱいザーメン流し込んであげるからね」
「いや、やめて!」
「ヤダ! それに大丈夫、怖いのは最初だけだから、すぐに気持ちよくなれるから!」
卑語をうわごとのように呟きながら、梨緒は皐月を犯す。
獣のように腰を振り、嬌声を上げ、果てる。
それを尽きることのない性欲によって何度も、何度も繰り返す。
「それにしても、サツキもやるわぇ……」
隣室で性獣と化した少女に犯され続けている皐月を見てウズメは呟いた。
今回、細かいところについては術式の知識のあるウズメが考えたものの、梨緒を擬似的にフタナリにし、自分を犯させるという流れを考えたのは皐月だ。
エロ漫画の読みすぎかエロゲーのやり過ぎだともウズメは思うが、それでもそれが現実に出来る手段となった場合は確かに意味があるのも事実である。
ただウズメを犯させたというだけでは、しばらく経って正気を取り戻してしまえば梨緒に再び抵抗の意思を蘇らせるかもしれない。
しかし、この流れだと梨緒が正気を取り戻したとしても、友人である皐月を犯したという事実が梨緒を逃がさない。
上手いと思うと同時に、それを躊躇うことなく提案した皐月を恐ろしくも思え、そしてそれ以上に面白いとウズメは思った。
交合を続ける二人を見続けていると、玄関の方に人の気配を感じる。
このタイミングでここに来る人間など一人しかいない。ウズメは玄関へと出て、帰宅した家主を出迎えた。
「お帰りなさい、サダヒコ」
「あぁ、ただいまだ」
やや疲労した様子の貞彦の肩には、気を失った彩乃が乗せられていた。
「その様子だと逃げ帰ってきたわけでも引き分けたわけでもないみたいね」
「悦楽の欠片の力を引き出させてもらったがな……術士というのはこんな程度なのか?」
「こんな程度、って言ってもねぇ。宮並なんかにいけば術士の質は相当高いと思うけど、こんな術士の過疎地域じゃそりゃ高が知れてるわよ」
術士の数が多ければ多いほど切磋琢磨する相手がいるのだから質が上がるのは当然と言えば当然の話だ。
その上、宮並であれば霊獣などが出現することが他の地域に比べて圧倒的に多いため、実戦経験を積みやすいというのもある。
「なるほどな。それで? お前らの方はお前らの方で任せろと言っていたが調子はどうだ?」
「サツキの悪辣無比な作戦で早くも梨緒ちゃんは性欲の虜になってるわよ。見る?」
顎で居間を指して問うと、貞彦は首を横に振る。
「いやいい。むしろ俺は彩乃の方をやる必要があるからな」
「そう。じゃあ、お手並み拝見といきましょうか」
炊きつけの言葉に、貞彦は自信ありげに頷いた。